vol.3

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俺って、庇護欲をそそるタイプの子が好きだったのか。手が離れると、そっと俺の服の裾を持ってくる姿に目を細めた。かっわいいな。 ただぶらぶらしているだけであっという間にチェックイン可能な時間になった。 「まだ早いしもう少しどこか……」 「……もう、部屋に行きたいです」 さっきまで可愛く見えてた横顔が妙に色っぽく見えたりして、口数が少なくなってしまった。ダメだよな。俺が緊張してどうするんだって。 「あの、ごめんなさい」 「……何が?」 「やる気満々って発言しちゃっ」 「や! 大丈夫! 思ってない、そんなの思ってないから」 上手くいく気がしない……。モナちゃんの緊張を解してやるために、何か気の利いたことでも言えたらよかったのだが、言えたとしても会話は弾まなかっただろう。 旅館に着くと、中居さんが部屋まで案内してくれ、館内の説明があった。一杯目のお茶を入れてもらい、後は湯や茶葉を置いて部屋から出て言った。夕食は早めにお願いした。名物の煎餅に手をつけ、その場をしのぐ。沈黙にモナちゃんが口を開いた。 「お布団は、夕食が終わったら敷いてくれるんですかね?」 「うん、そうだと思うよ」 「あ、違うんです。単に聞いただけで、やる気……」 「大丈夫! 思ってない、思ってないから」 「ふう、はい。じゃあ、先にお風呂……や、これも」 「うん、わかってる、わかってる」 「お風呂は食後ですか?」 「そうだね。先に行ってもいいけど、夕日の頃もいいね。あー、こんなことなら露天風呂ついてる部屋予約しても良かったな」 「え……」 「あ、や、違う。そういう意味じゃ」 「あ、はい。わかって、ます、わかって」 という、ぎこちない空気を過ごしていた。つまりは頭の中が、どう回避してもそのことで埋め尽くされているのだろう。
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