vol.3

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何より、せっかくの旅行なのにそこだけ切り取ったように事を為すのも良くないと思う。そこに行き着く流れとか、雰囲気づくりとか。とにかく、気持ちが大事だ。 のんびりしておくったって、俺たちは付き合って間もないわけだ。貴重な時間は有意義に使いたい。 「モナちゃん」 「は、はい」 「そろそろ、もう少し仲良くなりたい」 「……はい」 「あんまり、緊張しないで。敬語もやめない? 付き合ってるんだしさ」 話をしながら、自分の横の空間に来るようにそこをポンポンと叩いて促す。ぐずぐずするモナちゃんに、早くと言わんばかりの視線を向け、もう一度隣をポンポンと叩いた。 肩をほんの少しずらして横に座るから、顔がよく見えない。肩より短く切り揃えられた髪の隙間から覗く首筋が桜色に染まっていた。そこにそっと手を差し入れると、モナちゃんがビクリとして、身体を強ばらせた。それを解すつもりで、柔く髪をかき混ぜた。 いつも綺麗に整えられている髪が、今はいくらか乱れていて、長く一緒に居たことを表していた。俺の髪をかき混ぜる手が止まると、それが合図になって、モナちゃんは背けていた身体を覚悟を決めたように翻した。 視線が絡むと、モナちゃんの髪の中にあった手でぐっと引き寄せた。軽く触れるだけのキスをすると、唇を離した。二回目のキスはモナちゃんからしてくれた。それが終ると、額をくっ付け、はにかんだ笑顔を向けてくれた。 そこからは、目が合うとどちらからともなくキスをした。……もう、数えることは出来ないくらいだった。
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