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散歩しながら、俺たちの宿泊する旅館を指さし、あそこが俺たちの部屋だね、とか露天風呂はあそこだから、夕日はあっちの方向に見えるね、とか話しながら歩いた。そうこうしてるうちに、ちょうどいいくらいに日が陰ってきた。
「先にお風呂行っちゃおっか」
部屋に戻ると、何を持っていくのか知らないが、モナちゃんがバッグからガサゴソと荷物を取り出していた。こりゃ、風呂が長くなりそうだ。
「俺、もうちょいしてから行くから先に行っといで。ゆっくりどうぞ」
苦笑いして言うと
「はい、隅々まで洗ってきま……あの、そういう意味では」
「や、そういう意味でいいよ、もう」
真っ赤になったモナちゃんを部屋から送り出すと、「はは」もう声に出して笑ってしまった。可愛いなあ、もう。
上手くいく気がしない。……とか、言ってる場合じゃないな。しばらく外の景色に心を落ち着かせ、俺も風呂へと向かった。隅々……まで洗おう、俺も。
──隅々まで洗っても、部屋に戻ってくるのは俺の方が先だった。やっと戻ってきたモナちゃんに“随分と隅々まで洗ったんだね”と、からかいたくなったけど、今からかったら飯も喉を通らなくなるだろうから
「露天風呂どうだった?」と、無難に聞いた。
「綺麗でした。緊張したけど、すごく綺麗でした」
夕日に緊張するわけもないから、この後の事を考えて緊張してたのかと吹き出しそうになったが、微笑むに留めた。
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