vol.4

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 義仁とは、一年に一度会うか会わないかだ。それは、義仁の実家と私の家ががすぐ近くにあるからだ。 「義仁、こっちに帰って来てるって」誰かがそう言うと“幼馴染”で集まることになるのだ。そんなに仲良くない私まで律儀に声をかけてくる。「行けない」と適当に断ると、調整した日程を提案してくる。皆の日程が合うまで決まらなさそうで、諦めて会うことになる。 「法子、久しぶり」  満遍なく話しかけて、私にもそうする。きっと、みんなと話し終えて、話しかけるのは私が最後なのだと思う。幼少期は男女問わず、下の名前で呼んでたと思う。でも義仁がここへ越してきた時はもうとっくに名字で呼び合うのが主流で、ごく親しい間柄でだけあだ名代わりに下の名前で呼び合っていた。私は義仁に“親しい”という認識はしていなかった。だから、こう呼ばれることに少しばかり不満を感じ、意見するつもりで強調した。 「久しぶりだね。」 「うん。法子は元気だった?」    特に気にする素振りもなく世間話を続ける。義仁は私が以前は『義仁』と呼んでたことさえ記憶になのかもしれないと馬鹿馬鹿しくなってしまった。大して仲良くない私とだって楽しそうに話し、私もつい義仁の話に聞き入ってしますのだから、天性の人たらしなのだろう。 「真知子と尚信って付き合ってんの?」  義仁が二人に視線を走らせる。 「さぁ。今更すぎて躊躇してるのかもね。義仁、尚信から何も聞いてないの?」  言ってしまって、しまったと思った。さっき呼び方を『大友くん』に変えたばかりなのに。義仁の顔を伺ったけど、 「そっか」と言っただけだった。尚信からも何も聞いてないのか、義仁は何を考えてるのか分からない表情で尚信と真知子を見ていた。
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