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「すごいね、義仁は。誰とでも喋るね」
「そうだな。そういう環境だったから。自分から話しかけないと誰も話しかけてくれないような。でも、仁さんも裕もそうだから案外性格かもなあ」
義仁は何てことないように言ったけど、確か、日本に越して来たのは義仁と裕くんにとっていい環境を与えたかったからだって聞いたことある。
あっという間に、当たり前に円の中心にいたと思っていたけど、義仁は義仁で努力したのかもしれない。
「そんな顔しなくても。そういう環境だったけど、今もそういう環境に行くのは嫌じゃないからこんな仕事してるんだ。トラウマのようでトラウマじゃないのかな。それとも、みんながちゃんと帰って来られる居場所をつくってくれたからかな……」
義仁が冬の澄んだ空を仰ぐ。白い息が、空に消えていく。大晦日はなぜ、こんなに厳かで特別な夜に感じるのだろう。
ポケットの中の手をぎゅっと握ると、空を見上げてた義仁は私の方を向いて笑った。
身体ごと私の方を向き、反対側の腕を私の背中に回すと、引き寄せて抱きしめてきた。一瞬すぎて抵抗も出来なかった。もし、間があったとしても私は抵抗出来なかったかもしれない。
私もいつの間にか義仁の背中に手を回していたから。
大晦日の夜がこんなに特別だなんて、私は知らなかった。神社の境内では誰かの声を皮切りにカウトダウンが始まった。
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