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第一印象はやさぐれて酔っぱらって疲れたおばさん。
瑞穂さんと出逢ったのはバイト先のバーでだった。うちの店に来た時は既に酔っていた。
うわ、と思ったがそれを顔に出すわけにも行かず、オーナーに委ねる様に視線を走らせる。
「瑞穂さん、もうずいぶん飲んで来たんでしょ。ほら、話聞くから」
と、その彼女を嗜めた。『瑞穂さん』と呼ぶくらいだ。オーナーの知り合いであることにホッとして、俺は相手しなくていいことに、もう一度ホッとした。
「私だって、普通に恋愛したいし、結婚願望だってある! でも無理よ。毎日そんなことに時間かけて、自分偽ってまで……」
うだうだうだ。呂律もまわってなければ、話に脈略もない。完璧な酔っぱらい。酒を提供する店では珍しいことじゃない。こんな女の一人酒も。
そろそろ上がりかと、片付けを始めた頃、バチッとその人と目が合ったのだ。仕方なく失礼にならない程度に笑みをつくった。
彼女は真っ赤に潤んだ瞳で目尻に涙を残したまま、パチパチと数回瞬きをした。
「可愛い……可愛い! ねぇ、オーナー、この子可愛い!」
彼女は俺を指差すと、俺ではなくオーナーにそう言った。普段はわきまえて、そうしないが、酔っぱらい相手だ。長くなったら困るとわざと時計を確認した。……俺はもう帰るところだと。
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