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「はは、そうでしょう」
オーナーがそう言うと酔っぱらいは遠慮なくじろじろと顔を見てくる。別に珍しいことじゃない。俺は、そんじょそこらの女の子より可愛い。そんなの知ってる。
「ありがとうございます」
語尾にハートマークがつくように小首を傾げてそう言った。キメ顔、営業トーク。
「うーん、お肌も綺麗。油っぽくないの。水分量が多いんでしょうね。でもパーツがはっきりしてるし、油分が少なそうだから、皺になりやすいかも……4包、4包、あったかな?」
自分のカバンをガサガサと漁ると、小さな銀色のパウチを俺に差し出した。
「これ、お風呂上がりに塗って」
「はあ、どう……も」
受け取ったそれは何も印刷されていない中身のわからないもの。一瞬の躊躇をオーナーが見逃さなかった。
「瑞穂さん、化粧品作ってる人なんだよ」
「そう、まだ試作なんだけど、とてもいいから」
さっきまで泣いてたのに、にこにこと笑う、感情の振り幅は完全なる酔っぱらい。でも悪い気はしない酔っぱらいだった。
「ありがとうございます」
俺も笑顔を作ると、瑞穂さんはもっとへらへらと笑い
「うん、お疲れ様~」
と、だらしない姿勢で俺に手を振った。
確かに、瑞穂さんのくれた化粧水とジェルの間のようなものは男性用化粧品独特の清涼感のない、良いものだった。捨てても良かったのに、その日のうちに自分の自慢の顔に塗ったのだった。
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