vol.1

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──その日は遅くまで飲んでいたけれど、瑞穂さんはちゃんと帰ってしまった。 少しは前進したし、こうやって少しずつ懐柔していくとしよう。 ……いや、無理だな。少しずつだなんて。絶対に昼過ぎまで寝てるだろう瑞穂さんが起きた頃を見計らってメッセージを送った。 『来週のデートはどこでする? 映画でも観に行く? それとも俺の家で観る?』 とにかく、詰められるだけ詰めとこう。次の約束があれば嫌でも俺の事を考えるだろうから。 あと、さっさと一人前になる。会社でも瑞穂さんと会えるポジションに上がる。料理も頑張る。“アンチョビ レシピ”と検索ワードを打ち込んだ。 ふと『……今まで? 外食したり、彼が作ってくれたり。いや、もちろん私も手伝うし、作る以外の事はして……』こう言った瑞穂さんを思い出した。俺と再会するまで恋人も恋人候補もいなかったと言っていた。ここ最近じゃないにしても、恋人がいたってことだ。しかも、料理の出来る男。こんなアンチョビを使った料理を作るような男。 急にムッとする。いや、俺も同じ言葉を吐いたけど。何だよ、それ。 メッセージの通知音がして、スマホに目を落とす。 『おはよう 目立たない場所なら出掛けてもいいね。昨日楽しかったから、夕食はまた横浜くんの家でもいい? ゆっくり出来るなら土曜日かなあ?』 …………。 わぁい、デートだ!
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