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ふと、聞いてみたくなった。この宮司さんはそんなことを思わせてくれる人だった。
「僕からも聞いてもいいですか?」
「はい、どうぞ」
「宮司さん、恋人に仕事を辞めてって言われたらどうしますか?」
一瞬彼は何か困ったような悲しい目をして
「辞める」
と、即答した。それから
「そのくらいのわがまま言って求められてみたいなぁって思う」
と、言った。何かを想っているみたいだった。
「そうですか」
この人くらいの年の人が辞めたら会社が困るだろうか。宮司さんはそれを察したように
「うん。でも、そんな人を好きになったことはない。言わないだろうね。でもね僕が辞めたらみんなが困るとかそんなおこがましいことは言わないよ。下の子も育ってるし、能力の高い人たちばかりだから、僕がいなくても大丈夫! あ……でも寂しいから辞めないでとか言い出しそうな社長……いや、人はいるなあ。……面倒くさ……はは! 秘密ね。これも」
宮司さんは少し何かを思い出すように視線を落とした。だけど爽やかに笑うと
「君が決めることだよ」
と、言ってくれた。
「はい。後悔はしてません」
俺にとって、何が大事か。
「あ、すっごい顔可愛いね。やば、セクハラかなぁ、僕」
と、照れ臭そうに笑った。
「よく言われます」
俺もこう返した。この会社、受かればいいなぁと思った。何かわかんないけど、もうすでに、この人好きだなぁとも思わせてくれる人だった。
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