vol.1

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瑞穂さんはびっくりするくらい顔を赤くして、さっきの研修とは別人のように視線だけじゃなく身体をさ迷わせた。 「ああ、うう、そうか。君、学生だったのか。はあ、もう、やだ。黒恥! その呼び方は会社では止めて」 黒恥って。多分、黒歴史と赤っ恥が混じってる。快適な気温の中、額には汗が滲んでいて焦燥が見てとれる。 「ぷっ、はぁい。」 「しっ! 誰かに聞かれたらどうするの?」 「僕は困りません」 汗で張り付きそうな髪を避けて、取り出したハンカチを瑞穂さんの額に当てた。こっちは全然気にしてないのに(忘れてたし)ここまで取り乱してたら気の毒だなあって何気にした行動だったけど、ますます赤くなってしまうし、何かここまで動揺されると、つられる。俺の左手は瑞穂さんの髪、右手はハンカチ。そのハンカチは瑞穂さんの額。 瑞穂さんの媚びるような目に、自分の顔も赤くなるのを感じた。全然“おばさん”じゃないじゃん。肌、綺麗だし。むしろ、化粧っ気なくてこんだけ綺麗ならそのへんの女子より綺麗なん…… 「あの、」 今度は、瑞穂さんが俺を伺う。あ、何を、してるんだろう。やっと両手を下ろすと、ハンカチを手渡した。落ち着いたつもりだった。でも、こんな事を言ってしまうのだから、まだおかしかったのかもしれない。瑞穂さんの動揺がうつったのではなくて。
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