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知ってる。このアパートには女子もいる。
「そっか、じゃあ、他のにする?」
「……いや、ハンバーグ。紗香のも上手いし」
一瞬、間があった。ふっちー、気を使った。私が、顔に出しちゃったから。
「うん、美味しいの作るね」
心が、しぼんできちゃった。そして、それがまた顔に出ちゃうから、ふっちーが眉を下げて、私の頭に手を置いた。そのまま、くいっと服を摘まんでキスをせがむと、慣れたように唇が重ねられた。
でも、そのキスの前の一瞬の躊躇を見逃さなかった。私は、ずっとずっと好きだから、些細なことにも、気づける。
「送ろっか」
短いキスが終わると、ふっちーはそう言った。送ろっかじゃなくて、帰れって言えばいいのに。
「んー、いいよ。そこだし。じゃあね」
玄関を出る時
「紗香、俺べつに何もいらないからな」
心配そうにそう言った。プレゼントを買うのに短期バイトを入れたこと、気づいてる。私は、すぐに顔に出ちゃうからなあ。
「うん、わかった」
気を使うなら、そうじゃなくて、もっと違うところで……言ってやりたくなる。でも言えない。嫌われたら嫌だもん。
マンションに近づくと、工藤とすれ違った。
「お、ふっちーんとこ?」
「うん。工藤は朱里のとこ?」
「うん。あれ、雰囲気変わったな。化粧? へえ、いいじゃん。スカートも、大学生っぽい!」
工藤は『うん』って言った時、すごい幸せそうだった。
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