vol.1

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「いいですよ。秘密にしておきます。そのかわり……してくれません?」 俺がこう言うと瑞穂さんはさっきまでの動揺が嘘のように、表情が冷めて行った。だけど、返事は 「わかったわ」 という了承だった。 「では、ご指導、ありがとうございました」 「はい、頑張ってね。」 瑞穂さんは動揺の欠片も残さず、研修さながら去って行った。 あ、しまった。いつしてくれるんだろう。連絡先も予定も知らないや。瑞穂さん、普段はこの本社にはいない。来ることは多いみたいだけど。 あの一瞬じゃ全然話したりなくて、待ち伏せすることにした。 「瑞穂さん」 声を殺して呼び止めると、目をつり上げた。 「ちょっ、」 「今日は何時くらいに終わる? 」 「研修が済んだので、会議に出た後は事業所へ戻るわ」 「うん。じゃあ事業所から家に帰る時間は何時?」 瑞穂さんはため息を吐くと 「あー、今日は事業所へは戻らないわ。直帰予定よ」 と、諦めたように、本当の事を教えてくれた。 「じゃ、早く終わった方がそこのカフェで待つのはどうでしょう?」 「もう少し離れた店に出来ない?」 「じゃあ、あのバーは?」 「いいわ」 俺は一体何をこんなに急いでるのかわからないけれど、その日中に約束を取り付けてしまった。
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