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「いいですよ。秘密にしておきます。そのかわり……デートしてくれません?」
俺がこう言うと瑞穂さんはさっきまでの動揺が嘘のように、表情が冷めて行った。だけど、返事は
「わかったわ」
という了承だった。
「では、須藤主任ご指導、ありがとうございました」
「はい、頑張ってね。横浜くん」
瑞穂さんは動揺の欠片も残さず、研修さながら去って行った。
あ、しまった。デートいつしてくれるんだろう。連絡先も予定も知らないや。瑞穂さん、普段はこの本社にはいない。来ることは多いみたいだけど。
あの一瞬じゃ全然話したりなくて、仕方なく待ち伏せすることにした。
「瑞穂さん」
声を殺して呼び止めると、目をつり上げた。
「ちょっ、」
「今日は何時くらいに終わる? 」
「研修が済んだので、会議に出た後は事業所へ戻るわ」
「うん。じゃあ事業所から家に帰る時間は何時?」
瑞穂さんはため息を吐くと
「あー、今日は事業所へは戻らないわ。直帰予定よ」
と、諦めたように、本当の事を教えてくれた。
「じゃ、早く終わった方がそこのカフェで待つのはどうでしょう?」
「もう少し離れた店に出来ない?」
「じゃあ、あのバーは?」
「いいわ」
俺は一体何をこんなに急いでるのかわからないけれど、その日中に約束を取り付けてしまった。
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