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くいっとふっちーのTシャツの裾を引っ張って止めた。
「いいよ。さっきの同じアパートの子、待ってるでしょ?」
「あー、いや。あいつは同じアパートじゃない。アパートの子の友達」
「……そうなんだ。誰かの彼女?」
「違う。女子の友達」
「そう」
「……何だ?」
「可愛い子だね」
「はは、だろ?」
「うん。じゃあ、」
私はふっちーを追い抜くとさっさと歩いた。
『だろ』ってなんだよ。お前のモンかよ。悪かったな、素っぴんで。素っぴんの頃からの付き合いだろうがよ。あの子は……あの子は可愛い格好してたなあ。
そりゃ私だって会うってわかってたら、可愛い格好だって、メイクだってしたよ。
ふっちーにもだけど、あの可愛い人にこんな姿を見られたのがいたたまれなくて、恥ずかしかった。
私はせっかく買った朝ごはんに手もつけず、冷たいアイスティーが胃に落ちるのだけを感じていた。
同じアパートの子じゃないのに、朝ごはん一緒に食べるの?夜は送って行くの?
今まで『雅紀くん』なんて、ふっちーを下の名前で呼ぶ子はいなかった。
『菜月』ふっちーが下の名前で呼ぶ女の子も、私だけだった。朱里のことだって今西って呼ぶのに。
これは、あれだな。きっと、ふっちーは心変わりをしたんじゃないだろうか。でも、大学まで追いかけて来た私に、そんなこと言えないんじゃないかなって。
「はは」笑うしかなかった。
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