vol.2

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「……どうしたの?」 「や、ちょっと顔見に来ただけ。遅いから、帰るわ」 「え、ちょっと、ね、一瞬だけ。入って? ごめんね、臭いけど」 「いいよ、別に」 ふっちーが中に入ると、バタンと玄関のドアが閉まった。何で一瞬だけって言ったのかふっちーだってわかると思う。でもいくら待っても沈黙が続き、キスしてくれる気配はなかった。ふっちーの目が、私じゃなくて、部屋の方向に向けられていた。 「……何? やっぱり入る?」 「いや、帰る」 「え、じゃあ」 くいっとふっちーのTシャツを引っ張る。背の高いふっちーにキスしてほしい時はいつもこうする。わかってくるくせに、なかなかしてくれない。しばらくして、やっとキスしてくれたと思ったら、すぐに背中を向けてしまった。 「あ、ねえ、誕生日、楽しみにしてるからね! ふっちーは、楽しみ?」 「……ああ」 こっちも向かずにそれだけ言うと出て行ってしまった。バタンとドアが閉まると、ふっちーが廊下を歩く音だけが響く。 着ていたTシャツの胸元をつまむと、鼻を埋めた。……臭い、かな。 会いたかったんじゃないのかな? 別れ話……だったりして?ぶんぶんと首を横に振った。ダメ、考えない。もうすぐ誕生日なんだから。そう思ってんのに、こんな時は嫌なことばっかり考えてしまう。 『ちゃんと好きになったら、私だって絶対に諦めないんだから! 』 菜月ちゃんの言葉は今、関係ないのに、なぜか思い出してしまった。
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