vol.2

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インターホンを鳴らさず、慣れた手つきでコンコンとドアをノックする。まるで、“いつもこうしてます”って感じのやりとり。 紗香の部屋の階には先客があった。 「あいてまーす」って声がすると、そいつはドアを開け「紗香」って呼んだ。 紗香だって、そいつが来るのわかってるからドアの鍵は開けてたんだ。呆然としてると、すぐに出てきた男には何となく見覚えがあった。たぶん、年上だと思う。 誰だ。てか、何で彼氏の俺が隠れなきゃなんないんだ。またすぐに玄関の開く音に、もう一歩下がった。 「キョースケ……って、もういないや、はやーい」 そう一人言を言って、紗香はその男を追いかけた。今帰ったら外で鉢合わせするかと、その場で数分時間を潰すと、意外にも紗香は帰って来た。 男は戻って来なかった。頭が真っ白になる。心臓がバクバクする。帰ればいいのに、どんな顔して他の男を部屋に入れるのか、見てやりたくなった。 俺がインターホンを押すと、紗香は何てことない顔で「どうしたの?」って聞いた。見たことない服はさっきの男と色ちがい。派手な化粧、タバコ臭い。 そこで、あいつとヤッたのか?って想像して吐きそうになる。で、その部屋で俺の誕生日を祝ってくれると、平気で言うんだろうか。その口でキスしろって言うのか? キスした紗香からは、全く知らない匂いがした。
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