vol.2

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紗香とケンカなんてしたことなかった。紗香がそんな大人しいタイプじゃないのは知ってる。 こうなる前、昔はどうだっただろう。ずっと紗香と言い合いしてた気がする。何かとすぐつっかかってきて、俺も言い返して、あれはあれで楽しかった。 付き合ってからは全然そんなとこなく、俺が何言っても「うんうん」頷く。 たぶん、俺がやりたい為だけに家行って、終わったら帰ったとしても紗香は「いいよ」って言いそう。そう思うと、スーッと血の気が引いた。 俺は今まで、居心地良かったけど、紗香はどうだったんだろう。そりゃ、キスしたらしたくなるし、むしろ部屋で二人っきりで横にいたらしたくなる。 紗香は嫌だったかもしれない。我慢して付き合ってたかもしれない。ずっとずっと俺に合わせていつでも時間をとってくれていた。誘って断られたこともない。 コンコン。 津守が折り曲げた人差し指で壁をノックした。 「まあ、ここ壁薄いから、気をつけた方がいいかもね」 と、爽やかな顔して笑う。 「聞かせたいなら別だけど?」 津守はテリトリー意識が高い。だから、セフレとか仲良くない奴は絶対に自分の家には入れない。徹底してる。 津守の忠告に、みんな苦笑いした。こんな話をしたりする仲だから、何となく恥ずかしくて紗香をあんまりアパートに連れて来たくはなかった。
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