知る事から その2

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知る事から その2

知る事から その2 商店街から10分程歩いた所に山があった。 山と言ってもそんな大したもんじゃない 20分もあれば頂上まで辿り着けるぐらいの 小さな山だ。そして、俺と健児はこの山の中間地点に存在する小さな公園へとやってきたのだ 「うん、思った通り。なかなか良い景色じゃあ無いの」 「ああ」 肩から下げていたスクールバッグを健児は 地面に置いた 「じゃ色々話そっかね。 斎藤裕(サイトウヒロシ)くん」 「ああ、頼むよ。所でお前の名は何だっけ」 「三谷海都(ミタニカイト)さ。そんな名前考えて無いんだけどね」 あははと海都は笑った。その楕円の瞳には 白い星が浮かんでいる。モップの様に頭はぼさぼさ、唇は綺麗な赤、世間的には整った顔と言うべき何だろうか 「実は海都ね、制服のモデルで書いた奴なんだよ。笑っちゃうでしょ、端っこに書いた名前の無い奴に転生しちまったの」 「めちゃくちゃだな………どうりで思い出せなかった筈だな。ていうかハッキリ言って良いか」 「なあに?」 「お前の前世を思い出すとその顔…….…吐き気がする程に気持ち悪いよ」 俺の暴言に対しまた海都はあははと笑う 「うん、俺もそう思ってた。朝起きて鏡見たらひっくりしたもん。誰だコイツって」 「俺と変わんねえじゃん」 俺も笑った。心の底から笑うのはこの世界に来てからは初めてだ。何だか気持ちがいい 「と、話の途中だった。まず一つ大事な事は主人公が居るって事だね」 「主人公?」 「書いたんだよ、設定に " 田中澄(タナカトオル)主人公 割とドライってね。これが反映されて無いなら良いんだけど、もし反映されてたとしたらあまり田中澄の傍には居ない方がいいかも。何が起きるか予測不可能だからね」 「なるほど」 「で、次に………」 その時、公園の入口の方から足音がした 「やれやれ………入学初日は疲れるなって 珍しいな人が居るよ」 「ほんとだ。珍しい」 2人組だった。片方は海都と同じくぼさぼさの頭に目の下にあるクマのせいか目付きが悪く見える男、もう片方はボールの様に丸い瞳の中に更に二つの丸が浮かんでいる女性。 黒髪の肩まであるロングヘアーだ 「確かあんたらの名は………」 「斎藤裕」 「三谷海都だよ」 俺は街を見下ろす振りをしながら目を合わせない様にしてたが、海都は笑顔を振り撒いていた。吐き気がする程に 「あ、斎藤裕ってお前入学式の時名指しされた奴か。こんなとこで会うとは」 「やめてくれ。今すぐにでもそれは忘れたまえ」 女性と海都はくすくすと笑った。だが、男は笑わない。その目にはまるで火が燃える様に輝きがあった。その引き締まった口には強さがあった。何だか自分が汚れている様な気分になってまた景色を見る振りをする 「ま、失敗は誰にでもあるもんさ。俺は田中澄。よろしくな」 「あ、待ってよ」 2人は去った。海都は姿が見えなくなるまで 手を振っている 「あれが主人公?海都」 「そだよ。田中澄。隣に居たのが恐らく "高梨明日香(タカナシアスカ)"主人公以外には冷たい女だよ」 「ふーん………」 街を夕日の色が変えていた。動きも感情も言葉まで初めての街なのにどうしてだか懐かしいもんだ 「さて、そろそろ帰ろっか。まだまだ話したい事は沢山あるんだけどそれはまた後で。とりあえず今日はこれだけ渡しとく」 手渡された冊子には"八龍町観光ガイド"と 黒文字で書いてあった 「割と面白そうな街だよ。お互いの家は離れちゃったけどね」 「ああ」 パンフレットの地図には"僕のうち!"とマジックで書いてある下に矢印が、"裕の家"と書かれている下にも矢印があった。確かに距離は夏だったら熱中症になってしまいそうなぐらいはある 「一緒に帰るついでに駄菓子屋でも寄ってこう。まだ暇だしねー」 「駄菓子屋………?!」 海都は引きずる様に俺の手を引っ張った。 その口からは知らない鼻歌が溢れてしまった様だ
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