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知る事から その3
168cm 62kg
入学式の翌日、一枚の用紙に書かれた数字だ
それを知って俺は別に驚きもしないし悲しくもならない。前世から考えてみたら普通の数字であるとしか思わない。しかし、周りの悲喜交々を耳にすれば態とらしく嬉しそうにしてみたり、悲しそうにしてみたり周りに合わせて見るのだった
しかし、身体計測や視力検査等では目立った奴は出て来ない。これじゃ手に入る情報は名前と身長体重それから視力聴力ぐらい。
何をしてるんだか俺は………
「斎藤裕さーん、次どうぞー」
名前を呼ばれたら椅子に座らなきゃいけない
拒否権はあるが、使う必要が無い。一体いくつ検査はあるんだとため息をついた
「はい、こんにちは。袖捲ってここに腕置いて下さいね」
腕………?何か嫌な予感がする。そう言えば
俺の横をすれ違う奴らが腕を押えてた様な
「ちょっとだけチクッとしますねー」
その白衣を着た女性が注射針をセットする
瞬間、俺は気付いた。これ、採血じゃん。
しかし、高校で採血は必要無い筈だ。有り得ない、俺の偽りだけど両親から頂いた血管にそんな針を刺すなんて
「いやいやいや!嫌です!嫌です!おかしいでしょ!何で高校生のコレステロール値とか調べる必要があるんですか!?ねえ!?」
「元気ねえ………あら?刺さらない。もう1回」
「う、うにぁああ………」
俺の体内で働く細胞達が注射器の中に吸い込まれていく………馬鹿…こんな馬鹿な事….…
痛えよああ…
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一通りの測定が終わり、一旦昼食を挟んだら次の授業は体育だった。体操で身体を伸ばしてみて驚いた、若い身体とはここまで曲がるのかと。気分が高揚してしまい、声を張り上げたら担当教師は大きく笑った。対して周りのみんなは冷たい目でこちらを見ていた
「さあまずは体育館の端まで走るぞ。二列に別れて前の組から」
直線走りか。俺は後ろの組だ。みんな馬鹿みたいに張り切ってるな。俺も頑張らなきゃ
「よーい………スタート!」
その合図と共に前の列の男子が一斉に体育館の端を目指す。最初は大体一緒だったが、結局ずば抜けて速い奴が出る。てか1人速すぎる。陸上の選手か?
「おー、一番は 野栄戮か。速いなー陸上選手になれるぞー!」
野栄戮……新入生代表の奴だ。確かめっちゃヤバいとか設定に書いてあったな
「で、一番遅いのは加賀陽土か。ドンマイドンマイ!」
加賀陽土か。設定には無かったな。スポーツ刈りに小太りな男か。あれは確かに走りにくいかも。ってヤバい、まるでこれじゃ設定にはbotじゃん。授業に集中しないと
「次ー!後ろの組行くぞー!準備しろ」
走りか。一体この身体はどれだけの能力があるのか。お手並み拝見と行きますか
「よーい……スタート!」
合図と共に俺は走った。音が良い、体育館の床が軋む音が新鮮で心地いい。これなら一番も狙えそ………ってもう何人もゴールしてるじゃん?!
ゴールして、後ろから何人かもゴールした。
遅くも無い早くも無い一番目立たない順位だった
一番遅いのは眼鏡をかけている痩せ型の奴か。名前を言ってくれないと分からないな
ま、後で聞けばいっか。次だ次
「よーし、次は後ろ向きな。スタートの前に後ろ向いてなー後ろの組から行くぞ」
教師がさっきのスタート地点から叫んだ。
言われるがままに後ろを向くと、野栄と目が合った。にんまり笑ってやったら、舌打ちされてしまう始末だ
「準備良いかー?よーい…スタート!」
一斉に前を向き、教師の方へ走ろうとした
その時、事件が起こった
スタート時に横から誰かがぶつかってきたらしく、連鎖式に俺も横に迷惑をかける事となった。これによりレースは大混乱、互いに罵り、暴力を振るい始める者まで居た。それを
横目に何とか俺は走り切った。しかし、順位は中間に変わりは無いのだった
「おい、野中さん!あんただろ、ぶつかったの!見てたぞ!」
後ろ組の1人が誰かに向かって怒りを飛ばしている。野中と言うらしいその七三分けの男は悪びれもせず返す
「だから?避けないのが悪いんじゃ無い?」
堪え切れず、男は野中の胸を両手で掴んだ
「ふふ、所詮弱者の小競り合いじゃないの。
そんな怒んなよ。社会に出たらもっと酷い事されるんだからさ、獅子雄空くん」
前の組でやはり1番に到着したらしい、野栄戮は更に事を荒らげた。もちろん野栄にも殴りかかろうとしたのだが
「僕とやるの?保健室行きかもよ」
その余裕ぶった笑みを見て、振り上げた拳を
引いた。その様子を離れた所で見ながら野中も笑っている
「まあそれが良い判断だ。このクラスで僕に勝てる奴なんて居ないんだから………」
皆が一斉に野栄の方を向いたが、すぐに目を逸らした。嫌な気分だ。走れば解決するだろうか
「野栄ぁ!てめぇ!」
「うわぁ?!なんだ!?」
均衡を破ったのは主人公、 田中澄だった。
野栄の右足に自身の左足を引っかかけ、見事に野栄を転ばせた。目を背けていたみんなが
また騒ぎ出す
「無駄な争いは………辞めた方がいい。調子の乗りすぎは身を滅ぼす」
「………澄さん」
次に澄は野中を睨んだ、まるで蛇に睨まれた蛙の如く野中は震えた
「今回だけは許してやんよ。今回だけはな」
一連の騒動を腕を組んで、教師は眺めていた。俺も眺めていた。しばらくして、また
スタートの合図したので、今度は背面から起き上がって体育館の端を俺達は目指す。流石に次の妨害は起きなかった
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