0人が本棚に入れています
本棚に追加
*
思わず目を丸くする。それは自分さえも忘れていたような、ちいさな記憶の欠片――どうして。
聞きたいことはたくさんあったはず。なのに。頭の中で思考するだけで、形にならない。
青年は今にも泣きだしそうだった、こんなにも美しい夜なのに。
「――やっぱり無理だ。こんなにも苦しそうなお嬢さんを……俺は、見ていられない……!」
一瞬何が起きたのかわからなかった。
いつの間にか青年の腕の中にいた。
微かに伝わる身体の震えからは、ずっとひとりきりで抱えてきた苦しみの重さを知った。なぜ、はっきりと口にしないのだろう。
名前すら知らない。
それに……私のこと、どうしてわかるの。
私も、泣きそうだ…………。
最初のコメントを投稿しよう!