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そんなときだった、深淵の闇に沈んでいく自分を引きずりあげてくれたのは。 「こんばんは。こんな月の綺麗な夜に、沈んだ顔はもったいないですよお嬢さん」  夜道をきょろきょろ見回しても誰もいない。不思議に思っていると――また声がした。少しだけ、笑いを含んだ。けれどそれは、小馬鹿にしたような嫌なものじゃない。 「普通は、そんなに上を見ないもんな」 上を……………………。 思わず固まってしまう。 ――私は夢でも見てるの。 今宵の月のように、眩い金色の髪。 好青年っていう言葉が似合いそうな男が夜空に立っている。一体どういうからくりなのだろう。これが現実なのかさえ曖昧になってきたため、頬を思いっきりつねってみる。 ――痛い。これは現実だ。
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