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3. 三夜目
その次の日も、香菜は水の配給に行ってくれた。私の捻挫は、一晩で大分良くなっていたが、私は彼女の「好意」に甘えることにして、香菜を市民センターに送り出した。
その日一日、私はまだ痛む手をさすりながら、少し冷静になった頭の中で、これからの夫との関係について思いを巡らせた。
……別れるべきなのだろうか。だが、その決心は一朝一夕につくものではない。たかが、一時の浮気ではある、そう考えることもできなくはない。
私はどうするべきなのだろう。こんなことでもなければ、発覚しなかった、夫の不倫。冷え切ってはいたが、別れようとまでは思っては居なかった、そこそこに大事な、夫という存在。21年連れ添った間柄。それが砂塵の楼閣のように崩れゆく感覚のなかに、私はいる。
……いったい、私はいま、夫のことをどう思っているのだろう。そして、香菜は。
その日の夕餉の時刻、私はカップ焼きそばを食べながら、思い切って、香菜に問うた。
「あなたは、夫のどこを、好きになったの?」
「変なこと聞くんですね」
あいかわらずの停電の中、香菜の表情はよく見えない。
「いいじゃない。同じ相手を好き同士、情報交換しといても」
すると香菜は少し考えるような素振りのあと、こう答えた。
「……優しいところです」
「どんなふうに?」
「食事の時、大皿からまず、私の分を取り分けてくれたり」
「あとは?」
「道を歩くときは、必ず自分が車道側を歩くところとか」
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