福利の両親

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福利の両親

 この辺りは昭和五十年頃開発された新興住宅地で、大きさも形も似た一戸建て二階の住宅が並んでいる。住所のところにもそのような家が建っていた。表札をみると「新鞍」となっている。ここに間違いない。  約束通りここからは夏希に代わって俺が話をすることにする。少しでも穏便に済ませたいから。  インターホンを押すと 「はいぃ。どなたですかぁ」返事があった。 「大野智弘といいます。榛原中学校の生徒です。少しお話を聞きたくて来ました」  しばらく待つと玄関のドアが開き、五十代と思われる丸顔の女性が顔を出した。 「何のぉ、ご用ですかぁ」 「急にやってきてごめんなさい。榛原中学校の三年一組のものです。実は新鞍福利さんも三年一組なんですが、長い間行方がわからないということを聞きました。同級生なので、少しでもお話が聞けたらと思って来ました」 女性は怪訝そうな顔つきで俺達を見ていたが、 「ちょっとまってねぇ。主人を呼んできますからぁ」 そう言ってドアを閉めた。 「なんか、変なしゃべり方だなあ」と拓之が言った。確かに変だ。  ガタッと音がして男性が出てきた。やはり五十代後半で顔も体も丸い。眉は太くて短く目が小さい。いかにも人のよさそうな感じの人だ。 「福利のことを聞きたいってぇ。どんなことかなぁ」 さっきの女性と同じだ。この家の人はみんな同じしゃべり方をするようだ。 「一度も会ったことがないのに失礼だとは思いますが、同級生として福利さんのことを知りたいのです。できれば見つけて一緒に卒業したいと思っています」 男性は俺達の顔を一人ずつ見てから 「わかりましたぁ。まあ入ってくださいぃ」 そう言って家の中に入れてくれた。  玄関を入ると廊下がまっすぐに続いていて、上がってすぐ左手の部屋に通された。中に入ると、ガラス障子の向こうに庭が見えた。手前の木は花の散った桜のようだ。  中央に座卓が置れていた。右手に床の間があったのでこちらが上座だなと思い、わずかな知識だが上座に座るのは失礼だと思い、俺は障子を背にして上座の横に座った。夏希と遥加が俺の右に並んで座った。角をはさんで上座に向かって拓之と慎介が座った。  男性はお茶を用意するようにと女性に声をかけ、俺の向かいに座った。この位置でいいのかなと考えていると 「よう来てくれましたぁ。同級生が遊びに来てくれるのわぁ初めてでぇ」 そう言われても、俺達は同級生といっても福利君より四歳年下で、遊びに来たわけではないのだが、行方不明になった当時の彼は中一の時なので同級生と思っても無理はないだろう。 「福利さんのお父さんですか」 「はい、父ですぅ。これは母ですぅ」 お茶を運んできてくれた母親も、俺達にお茶を配り終えると父親の左に座った。 「私たちわぁ、一九九三年に日本にやってぇきましたぁ中国人ですぅ。旅館の仕事に就いてぇ、一九九九年にやっと帰化申請が通りぃましたぁ。そのとき日本名を新鞍とぅしましたぁ。元の名は鞍ですぅ。その年の四月に福利(ふくとし)が生まれぇましたぁ」  その後、福利は美空小学校を卒業し、二〇一二年に榛原中学校に入学したが、その年の七月三十一日に行方不明となったということだ。  父親の話では、特に仲のいい友達がいたわけではないが、中国人だからといっていじめにあったこともないという。  ただ、中学生になって二十代の大人と頻繁に会って話をしたり、一緒に出かけることが多くなったという。
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