天文オタク

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天文オタク

 今日はよく晴れた日で、風がふくとかすかだが部屋の中までモッコウバラの香りが入ってくる。僕はこの香りが好きだ、目立たないから。  午後に皆が集まった。 「次男、昨日の件親父に聞いてみたら、大野に小林安請(やすし)という天文オタクがいるって」 「大野に小林か」 拓之が言葉をはさんだ。何が言いたいのか俺にはすぐわかった。 「田舎って土地の名前と苗字が同じって人、多いよなぁ。しかし、大野に小林で、なぜ真野に大野なんだ」 俺のことである。俺、大野智弘は真野に住んでいる。 「お前なぁ、本当に獣医になるつもりか。吉本へ行け、吉本へ」 吉本とは吉本興業のことで、関西人は乗りで話す奴が多い。「吉本へ行け」は決して褒めているわけではないのだが、言われた本人は結構悦に入っている。拓之もそうだ。にこにこしている。 「私が大野よ」遥加が答えた。そうだ、遥加の家は大野だった。 「じゃ遥加、小林安請って人知ってるか」 「大野は小林という苗字は多いけど、名前までは知らないわ。家に帰ってお父ちゃんに聞いてみる」 俺達はさっそく遥加の家へ行くことにした。 「ちょっと待って。その前に図形について親父に聞いてみたことも話しておく」  慎介があわてて話し始めたので、立ち上がった四人はもう一度座りなおして慎介の方を見た。 「確かに三つの名前は夏の大三角の星で三角形に並んで見えるけど、地球からの距離はそれぞれ違うから、星と星の間を長さで表すことはおかしいというんだ」 「じゃ、この図形は星座を表しているのじゃないということ」夏希が尋ねる。 「親父は牽牛と天津、それと鞍の間は等間隔の目盛りがついている。そして、牽牛と天津を中心として円で織女の位置を示していることに意味があるのではないかと言うんだ。円の半径が分かっているのだから、牽牛と織女、天津と織女の間も目盛りをふればすむことだから」 「慎介、お前の親父はやはり頭がいいなぁ。そこまでこの図形から考えつくのか」 「それなら、やはり右の図は琵琶湖で図形は地図と考えていいのかな」夏希もなかなかいいことを言う。 「わかった。では書付についてはその線で考えていこう。とりあえず大野に行って小林安請さんをさがそう」
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