1

1/5
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ

1

「本来ならば、人間がエルフの森に立ち入ることは許可されていません。あなた方には、そのことをきちんと念頭において頂きたい」 「解っているよ」 森の入り口――煌びやかな装飾を身に着けたエルフの女性が、二人の人間を案内していた。 一人は、酷くラフな格好をした青年だった。白いシャツに黒色のスラックスを履いており、顔には眼鏡をかけている。背中にはバックパック。髪はくせっけで、黒色をしている。レンズの奥の瞳は青色で、どこか退廃的な色を携えている。 もう一人は、少女である。栗毛色の髪を肩のあたりで切りそろえていて、右側には小さな花をあしらった銀色のヘアピンがつけられている。背は低く、比較的背が高い種族であるエルフと並ぶと、子供のようにさえ見える。背中には青年と同じくバックパックが背負われている。 青年が口を開く。 「過去、人間がエルフの森に立ち入ったのは十回にも満たない……今回のこれが、例外中の例外ってことは理解している」 「……それは重畳。理解なされているのであれば結構です。それでは、こちらへどうぞ」 案内役のエルフが先導する形で、三人は歩き出す。 「なんか……全然歓迎されてない感じですね、先生」 エルフの背後で、小さな声で少女が呟いた。先生と呼ばれた青年は、冷淡な目つきで少女を見返す。 「知っているだろ? エルフは人間……というか、自分たち以外の種族が嫌いなんだ。自分の種族が、つまりエルフが最も優れていると考えている……要はプライドが高いんだな。そこから、エルフ以外の種族を馬鹿だと思って見下している。だから、僕らみたいな立ち位置の相手は一層嫌いなんだろうさ。歓迎されないのも当然だ」 「プライドが高くて申し訳ありませんね」 「ついでに地獄耳らしい。耳の長さは伊達じゃないってわけだ」 振り向いたエルフに対して、青年は肩をすくめる。少女は一触即発的な雰囲気を感じて、身を縮こまらせた。 青年はそんなエルフの様子にも少女の様子にも気にした様子は見せず、歩きながら周囲の森を観察している。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!