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「……通常、我々エルフがあなた方のような存在に頼ることはありません。しかし、今回の『これ』はあまりにもイレギュラーが過ぎる」 「安心してくれていい。僕らは一応、そういうものの調査を専門にしている……ま、話に聞いた『それ』が本当だとしたら、当然、実際に触れたことはないわけだけれど」 「あったなら一大事でしょう、歴史に名を刻んでいてもおかしくない」 「えっと……エルフさん、その、依頼にあった話は本当なんですか?」 少女は訊ねる。その言葉には純粋な疑問、というより、『本当にそんなことがありえるのか?』という畏怖にも近い感情が浮かんでいる。 「断定はできません。だからこそ、あなた方を呼んだのです。しかし、文献が正しいのであれば、あれは――」 「――……神族の遺産が実在したと」 神族、と呼ばれる種族が存在する。否、存在したと言われている。 その存在は、もはや神話の域にしかない。各地に伝承された書物に残された、伝説……本当にあったのかもわからない、実在したのかさえ不明瞭な、おとぎ話の世界。そこに刻まれた、現代の人やエルフをはじめとした理性的種族を、遥かに超えた技術を有した未確認の種族。 それが、神族と呼ばれる存在だ。 その存在は、これまで現実に確かめられたことは一度もない。物語上の神族は、多くの、現代では再現不可能な代物――神器と呼ばれる道具を創り出していたとされるが、その神器の一つさえ、現代では確認されていない。 残っていないのだ。だからこそ、神族は空想上の、伝説上のものとしか思われておらず、誰もが現実に存在するものだとは思っていなかった。 今までは。 「あの巨大な飛空艇を、現在の魔法科学技術によって作り出すことは不可能です。しかもそれが、我々の湖の底に沈んでいた……外見的特徴も、文献に記された『神々の飛空艇』と一致します。おそらくは間違いないかと」 「それが本当なら、歴史的な発見だ」 空想上の存在だと考えられていた神族が実在した証拠が見つかった。それがどれだけの物なのか、理解できない知識人は存在しない。 青年は楽し気に口元を歪める。
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