プロローグ

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プロローグ

何処から澄んだせせらぎの音が聞こえてくる……そんな美しい森の中に、まるで金属を叩くような異音が鳴り響いた。 ともすれば驚愕、あるいは恐怖を生みかねないような奇妙な音だったが、それを聞いていた一人の少女は退屈そうに欠伸をするだけだった。 「おや、今日は鳴っているね」 「ええ、そうみたいですね」 森の泉の傍、水車と併設して建てられた小屋の中には、一人の少女と老人が座っている。両者ともに耳が長く、切れ長の目つきに華奢な体つきをしている。それは、エルフと呼ばれる種族の特徴だ。 ここはエルフの住まう森の一部だった。森の中央東に位置する巨大な湖。近隣に集落を構え、自然と共生し、生活を営むエルフたちは、この湖から生活に利用する水を確保している。少女と老人がいるのは、その湖に隣接した小屋である。ここは水車のメンテナンスを行う際や、湖に異変が無いかを監視する役割のものが利用する場所だった。 少女と老人の役割は、湖の監視である。近隣のエルフたちにとって、この湖は生活の要である。異変が起これば文字通り死活問題となり得る。よって、常時監視するのは当然の考えであった。 「それにしても、この音はなんなんですかね」 異変。 異変と言えば、大きな異変が起きている。 少女は小屋の窓から、湖を眺めた。 つい一月ほど前からのことである。湖の方面から、奇妙な金属音が時折響くようになったのだ。 音は、湖の奥底から響いてくるような重々しいものであり、自然との共生を大前提に生きるエルフにとっては聞き馴染みのない異様な音だった。 はじめこそ、不可思議に、そして不安に思い、慄いたものだが、音はただ響くばかりで他に何の異常も発生しない。音自体も常日頃から鳴り響き続けるようなものであり、日に一度鳴る日もあれば、二、三日鳴らない日が続くこともある。 最初こそ、鳴るたびに身を震わせたものだったが、一月もすれば慣れる。 「さてねぇ、それなりに長いこと生きちゃいるが、こんなこと初めてだからね。さっぱり見当もつかないさ」 老人は言いながら、長いひげを撫でた。少女は退屈そうに欠伸をしながら、ぼーっと湖を眺め続ける。 その時だった。 ぐぉおおおおおおおん……っと、再び異様な音が鳴り響いた。
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