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初恋1
「ストーップ!」
圭吾(けいご)の声に梶(かじ)はキキキイーと急ブレーキを踏んで車を停めた。
「ありがと、梶。今日はここでいいよ」
「坊ちゃん、ほんとにここでいいんですか?校門から随分離れてますよ?」
「いい、ここで。……ありがと。じゃあ行ってきます」
圭吾は車から降りると急いで路地から通学路に向けて駆けていく。
「あのヤンチャな坊ちゃんももう高校生か。すっかり落ち着いちゃって」
梶は圭吾の姿をゆっくり追い、校門に入ったところまで見送ってから携帯を取り出し誰かに電話をした。
『はい』
「あ、相良(さがら)?俺。坊ちゃんを無事に送ったんで今から出社しまぁす」
『了解。お疲れ』
「……それだけ?」
『……それ以上何がある?』
「"梶、愛してるよ"……とかないのか?」
『……ない』
ガクッと梶はハンドルに凭れかかる。
「仕事モードの時はほんとお前ってつれねぇな?昨日はあんなに何回も‥‥」
『……刺されたいのか?梶』
「はいはい、分かってますよ。じゃあまた後で。チュッ」
ブツッと通話が切れた。
「チッ、冷てぇなぁ」
そう言って梶は携帯をしまうと車をUターンさせ会社の方へ向かった。
【チュッて‥‥】
「ほんとにお馬鹿なんだから」
相良が少し頬を赤らめながら溜息をつく。
「どうかしたのか?」
「あ……し、社長」
相良が振り返ると車椅子に乗った伊織(いおり)がそこに居た。
「梶……か」
「ええまぁ。今からこちらに向かうと」
「そうか。圭吾に何かあったら直ぐに言えと言っておいてくれ」
「はい。分かりました」
伊織がそう言って社長室に入って行くと相良は再びハァと溜息をついて秘書室の椅子に座った。
【伊織さん、ピリピリしてるなぁ。やはりあのせいか】
最近イタズラなのかマジなのか伊織に変な手紙が届くようになった。そして昨日の手紙には圭吾のプロフィールがただ添えられていた。
[ お前の息子を知っているんだぞ]
という相手からのプレッシャーなのかもしれない。
東原金融と言えば、東原組の仮の姿ーーー
ヤクザな仕事だけではこのご時世では凌げない。
先代から続いている"土地転がし"を止め、3代目にあたる社長の伊織がその土地を売却した金を元手に今の金融会社を立ち上げた。仕事は上々。
しかし逆恨みを買う事も多々あった。
特に伊織さんには何よりも守らなければいけない"家族"がある。
桐栄(とうえい)さんと圭吾坊ちゃんーーー
【伊織さんがピリピリするのも仕方がない……か。それに一時期伊織さんの血筋のせいかよく伊織さんに面差しが似ていたが、成長と共に最近は奥様である千佳子さんに似てきた。更に恋でもしたのか、とても仕草や表情があの年齢からして艶っぽい】
「危険‥‥だな」
あんなにヤンチャだった少年も今では大人しくしおらしい青年期に入りつつあった。
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