視《み》える

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「侑!至!移動早いじゃん!」 後ろから2人の間に割って入って肩を回すのは、元副会長の山崎(やまざき) (たける)。 「健、痛いって!お前バカ力なんだから手加減しろよ!」 「ははっ、ごめんごめん。 あー、昨夜行けなくてごめんなぁ。 ばーちゃんの誕生日で外食に連れて行かれちゃってさ。抜け出せなかったんだよ。」 「お互い様だからいいよ。 でも、苦手系な奴で俺が手こずっちゃってさ。 至に負担かけちゃったんだ。」 「それはもういいんだってば! 侑は気にしすぎなんだよ。」 「はいはい。惚気は家でやってよ。 で? ソレ、伸二のとこに持って行ったのか?」 「うん。伸二ん家に義之も来てもらってたからさ。 珍しくアイツでも説得できなかったから、冥官(みょうかん)にお引き取りいただいたよ。 面倒な奴だったな。」 「最近、そんな奴ら多いよな。 未練タラタラで他人を恨むことしかしない。 嫌な世の中になっちまったもんだな。」 「人の世は常にそうだろ。 欲や(ごう)が深ければ深いほど、怨霊に変化(へんげ)しやすいからな。 物が豊かになればなるほど『もっと、もっと』と求める心が膨れ上がる。」 彼らにとっては日常茶飯事のことであるのだが、他人が聞いていたら、一体何の話なのかゲームか何かの対戦なのか、意味が分からなかっただろう。 「おーい、席取っといたぞー!」 日当たりの良い窓際の後ろのテーブルから、義之がドヤ顔でひらひらと手を振っている。 この授業…実験室は自由席だ。 後ろの特等席は俺達5人用として、暗黙の了解で級友(クラスメイト)皆んな遠慮して空けてあるのだが、さも、自分が“してやったり”感満載でのさばっている。 「おう、サンキュ。」 「いつも悪りぃな。」 それぞれに一応労いの言葉を掛けながら、席に着いた。 「義之、夕べ助かった。ありがとう。」 侑がそっと耳打ちすれば、親指を立ててウインクした。
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