フレンドリスト 「椎名 藤という男」

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「この前、ノート貰っただろ。その借りが返ってくるだけだと思えばいいんじゃねえの」 あまりにも必死で、浅はかで、自分に呆れそうだ。こいつに頼られたいと思うのがどれほどに無謀なのか、考えると気が遠くなる。まるで永遠を数える作業のようだ。果てしなく遠い。 「これ以上、返そうとしなくていいから」 「女の子が寝たベッドで眠れるんなら、お安いご用ですけど」 「すごく、気持ち悪い」 すこしでも永遠から遠ざかりたい。頼って欲しいことを無理に茶化して、朝佳が不器用に笑ってくれる。それだけで、少し信頼されているように錯覚するから病気だ。 俺の頭はどうしようもなく、朝佳に浸食されている。 朝佳が使ったベッドで眠ることなどできなかったくせに。 貸し借りとか、打算とか、そういうことを全部忘れて、ただ俺が本能的にこいつにしてやりたいだけのくせに。 俺の口から、そういう事実が告げられることは一生ないだろう。 「ほら、どこにあんだよ」 呟いて、朝佳の瞳が揺れるのを見た。 弱っていると感情が良く出る。言葉を選ぶ間合いも、本気と冗談の境目も、全部透けて見えるような気がした。 「バッグの右ポケットに、USBが入っている」 その言葉に、俺は笑って、今にも朝佳に触れたがっている指先を隠していた。
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