フレンドリスト 「椎名 藤という男」

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朝佳に錠剤を飲ませて、パソコンとプリンターの電源を入れた。起動するのを待ちながらベッドに横たわっている朝佳を確認すると、こちらを見ていたらしい双眼とぶつかる。 見つめあったまま首を傾げると、視線を逸らされた。 「なんだよ」 問いかけると小さく「なんでもない」と聞こえる。その声が置いてけぼりを食らった子どものようだ。 小さく笑うと、逆に「なに」と問いかけられる。それに「なんでも」と適当な答えを返しながら、パソコンにUSBを差し込んだ。 ファイルの中にはレポートのデータが入っている。今日の日付と学籍番号らしき羅列を見て、データをクリックした。 開くと8千字程度のレポートが入っている。 ずらりと並んだ文字の羅列に目が眩んで、一瞬瞬きの感覚が歪んだ。 感覚を取り戻すようにもう一度瞼を瞬かせて、プリントアウトを実行する。無線でどこにでもアクセスできるパソコンは、今や空間や俺たちのような物質でさえも飛び越えて行く存在になった。 きっと、いつの日にか、人間の手には負えないものを、人間は創り出してしまうに違いない。その時人類は崩壊する。 随分と壮大なイメージに思考が飛んで、目の前に出てきた紙に引き戻される。朝佳のレポートは、白い紙に印字されると、ますます濃密に俺の視界を歪ませた。
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