フレンドリスト 「椎名 藤という男」

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ソーシャルマーケティングという文字が視界に飛び込んで、無理やりに思考から遮断した。朝佳と自分の能力の差をよく理解できた。おそらく俺には書けないだろう。 「じゃあ、行くわ」 プリントをファイルに突っ込んで鞄に入れる。そのまま立ち上がって告げると、朝佳はまた眉を顰めていた。 「私、モノ、奪って逃げるかもよ?」 布団に包まれたまま、随分物騒なことを言う。それに笑うと、朝佳はますます眉を顰めていた。 「へえ」 相槌のように返して、玄関に向かいかけていた足をベッドへと向けた。 相変わらず具合の悪そうな朝佳は、じっと俺の目を見つめていた。今にも熱に溶けてしまいそうな瞳だ。その瞳にもう一度忍耐を唱えた。 「やってみろよ。別に、お前ならいいよ」 呟いて、朝佳の瞳が丸くなったのを見た。それを笑いながら、1時間後、俺が戻ってくるのを待っているであろう朝佳を思っては、大股で部屋から飛び出した。 * * * 大学に到着した時間はちょうど4限の中間あたりだった。藤に任せているくせに結局この時間に来てしまったことを思い出しながら、敦賀の研究室を目指す。 案外簡単に見つかったのは、大学に来て早々、謙太郎に出逢ったからだ。
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