フレンドリスト 「椎名 藤という男」

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さっさと帰るべく踵を返して、大量の紙に覆われている部屋から足を踏み出した。 「きみ」 「はい」 踏み出して、後ろから言葉を投げ掛けられる。その声に振り返って、女子生徒にもてはやされている男の顔を見つめた。 「朝佳ちゃんに、元気になったら、またおいでって言っておいて」 その言葉に返事を打つ間もなく扉を閉めた。 エレベーターで下の階に下りて、人ごみに塗れる。少し前まで講義中だったはずが、いつの間にか4限が終わっていたらしい。 俺はどれだけの時間を、あの研究室の中で過ごしていたのだろう。 ほんの少しの時間だったはずだ。不可解な気分になりながら腕時計を確認して、秒針が動いていないことを知った。 電池が切れていたらしい。 スマホを取り出して時刻を確認すると、今3限が終わったところだった。 一つ息を吐いて、研究室でやり過ごした苛立ちを諌める。あの耳に光っていた黒いピアスに、強烈な見覚えがある気がしてならない。 「春哉?」 後ろから流れてくる声にはっとして振り返った。そこには、数時間前に連絡を取り合った男がいる。 「藤」 目の前の男の名前を口遊んで、敦賀の耳に突き刺さっていたものへの苛立ちを、思考からかき消した。 「え、間宮さんは?」
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