フレンドリスト 「椎名 藤という男」

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「俺ん家で寝てる」 「え、ええ、マジで」 完全に誤解を生んでいるのを感じて、体調を崩していることを伝えた。 藤は朝佳が人生のほとんどの時間を労働に費やしていることを知らない。それを俺がべらべらと公言していいものかわからないから、とりあえず、掻い摘んで説明した。 「昨日の昼間から体調悪そうだったんだよ。今もすげえぐったりしてる」 「マジで? 病院は?」 「行ってない。行きたくないって駄々こねてる」 「え、なにそれ」 虚を突かれたような顔をする藤にため息を吐いて、「知らねえ」と呟いた。あとどれくらいで5限が始まるのだろうか。 朝佳は俺の部屋で、今何をしているのだろう。 あの体のまま消えることはさすがにないと思いたいが、もしもいなくなっていたら、次に会えるのはいつだろう。もう会えないとしたら。 ——どう考えても俺と朝佳の間に接点はない。 あいつが俺に関わることをやめてしまえば、簡単に消える。軽薄な関係の上を歩いている。 縮まっているのか、それとも遠ざかっているのか。知れば知るほどに距離は遠ざかる。 まるで煙を掴むような作業だ。朝佳の実体の怪しい生活は、いったい何を隠しているというのだろう。
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