フレンドリスト 「椎名 藤という男」

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「間宮さん、駄々こねたりするんだ。可愛いなぁ」 疑念の渦に呑み込まれる俺の横で藤が笑っている。寛容な男だ。 こいつはいつも穏やかな海のような心を持っている。俺とは大違いだ。可愛いだとか、茶化すでもなく簡単に言える藤は違う。 何を言っても嘘のように感じ取られる俺とは、言葉の重みが違う。 藤のような誠実な人間は、どういう家庭の基に生成されるのだろう。少なくとも、俺の家庭では不可能だ。 人間の人格形成には初等教育が一番大きく関わっている。だからこそ、俺のような精神の曲がった人間と、藤のような人間の差異が生まれる。この世は格差だ。格差こそが生活を支援している。 「そこは可愛さよりも体を優先した方が良いだろ」 控えめに言うと、藤はケラケラと笑っていた。その笑いの意味が解らずに瞳を覗くと、チョコレートブラウンの瞳と目があった。 アーモンドのような緩いカーブを描いている瞳が笑っている。何が可笑しいのか問おうとして、藤が口を開いた。 「春哉の前だと、全員我が儘になれるんだなぁ」 まあ、俺もだけど、と続けられて、言葉に詰まった。朝佳は俺に我が儘を言っただろうか。そう思ったことはない。 藤も同じで、我が儘を言われた記憶など一度もなかった。いつだって俺は与えられてばかりだったし、藤に何かをしてやれた記憶がない。
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