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フレンドリスト 「椎名 藤という男」
手持無沙汰で、届けられていた封書を見た。宛名には“黒木 春哉 様”と書き込まれている。
中を開いてみれば、昔何度か見た筆跡で文字がつづられている。はじめの挨拶をすっ飛ばして真ん中だけを掻い摘んで読んだ。
“離婚ですが、来年には上手くまとまりそうです。春哉は何も心配しないで”
そこまで読んで、捨てた。
いくら捨てたところで捨てきれないとわかっていて、俺は何度でも捨ててきていた。
心配など1ミリたりともしたことがない。
たった一つの家を出る出ないでここまでもめている親の顔を思うと吐き気がした。それをたった一枚の紙ですべて報告してくる組織形態に笑いながら、まあ、この方がこちらも都合はいいと思う。
どうせ避けられない。
物心がつく前から、俺はあの親の息子だった。当たり前の事だろうが、それこそが俺にとっての最大の悲劇だ。
人は生まれを選べない。
俺がそのことを酷く残念に思い始めるのは物心がついたその瞬間で、結局今の今までこの感情を捨てきれずにいる。
整然と纏まっているリビングも、朝佳が眠っている寝室も、何一つ俺の力で動いていない。
すべてが親の保護下にあって、俺のものではない。
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