フレンドリスト 「キホとカンナと本命」

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フレンドリスト 「キホとカンナと本命」

藤との会話を切り上げて、すぐに大学を出た。向かう先は決まっているから、とりあえず足を動かす。そうして歩いているうちに後ろから声がかかった。 「ハルチさぁーん!」 途轍もなく無視をかましたい。聞こえないふりをしたい。思う俺とは正反対に声が近づいてくる。 いっそ走って逃げればいいかと思ったが、それをする気力もなく、振り返った。今、非常に出会いたくない人間だ。 「ハルチさん!! キホですよ? どうして無視するんですか?」 「ああ、誰かと思った」 「絶対嘘ぉ!!」 キンキンと耳に響く声で叫ばれて意識が遠くなる。なぜエンカウントしてしまったのだろう。 今日も完璧に偽物の睫を操っている女にうんざりして、とりあえず止まっていた足を動かした。 「ハルチさんハルチさん」 「何だ」 「今日ですね、キホ、もう講義終わったんですよ」 「おめでたいな」 「そうなんです」 あまりにも感情のこもっていない、冷めきった言葉にさえ、食いついてくる。 これがこいつの本気なのだろうか。厄介すぎる。 横を歩くキホの手が、当たり前のように俺の腕と胴体の間に入ってくる。さすが、と思ってしまった俺は、完全に他人事のような気分になっていた。 気を持ち直して、口を開く。
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