フレンドリスト 「キホとカンナと本命」

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「え、ハルチさん風邪ですか?」 「さあ」 風邪を引いているのは俺ではない。 おそらくキホにも分かっているのだろう。 風邪でもない俺が購入したのは、冷却ジェルシートだった。この買い物にキホを連れてくるつもりはなかったが、丁度いい機会なのかもしれない。 店を出て、また歩きはじめる。 キホの腕はレジ会計で一旦離れてから、またもとあったように俺の腕に絡まっていた。 指摘するのも面倒でそのまま歩いていると、周囲から奇異なものを観察するような目で見られる。その視線のひとつひとつに『俺じゃない』と謎の言い訳を思いつつ、否定して回るのも面倒で、ただ先を急いだ。 秋が深まっているとはいえ、この時期はまだ暑さの余韻を残している。 キホがぶら下がっている俺の腕はじっとりと汗ばんでいて、やはり気分が悪かった。 もともと俺は、人とべたべたと触れあうことを好んでいない。 じろりと瞳を動かしてキホを見つめてみるが、ハートが飛んできそうなウインクとぶつかって瞬時に視線を逸らした。 「照れちゃって」 そのポジティブ精神を俺も見習った方が良いかもしれない。一瞬考えて、朝佳に付き纏う俺が、こいつとそう変わらない軽口を、あいつに向けて口ずさみ続けていることを思い出して閉口した。 「そんな釣れない所も素敵です」 「一生釣れなくても良いか」
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