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「悪かった。言われたくなかったんだろ。もう言わねえ。知らないふりしてやるから泣くな」
「そういうところが、本当に、狡いんですよ」
「マジでお前の狡い判定がわかんねえ」
「ハルチさんはだいたい、存在がずるい」
「根本からかよ」
軽く笑って、頭に触れていた手を離すと、キホと目が合う。その目に呆れたような色が灯って、小さく笑った。後輩とは思えない。
「いまだに忘れられない元彼が女の子連れてきて、それでも許されるのって、この世のどこ探しても、ハルチさんくらいですよ」
「そりゃ寛大な元カノで良かった」
茶化して笑うと、そういう意味じゃないですと指摘される。そんなことはわかっていた。
また俺が狡いらしいことへの指摘なのだろう。もはや母親か何かのように見えてきたが、こいつはれっきとした年下だ。
「あんまり誰にでも優しすぎると、本命の子が妬きません?」
ケラケラと笑うキホに言われて、やはり少し前に「付き纏ってる」と話していたカンナとのやり取りをしっかり聞かれていたことを知った。
苦笑して、キホに問われた言葉を反芻する。
本命の子が妬く?
そんなわけがない。俺は、朝佳にそんな乙女チックな感情を抱かせることのできる立場にない。どうせ節操のない男と思われるのが関の山だ。
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