フレンドリスト 「間宮朝佳と38度7分」

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フレンドリスト 「間宮朝佳と38度7分」

部屋について、まず、玄関に転がっている靴を確認した。俺がさっき家を出る時に見たままに存在していることを確認して、安堵を吐く。 手にぶら下げていたレジ袋を一旦フローリングに置いて、朝佳の靴を並べた。 アイツは常に、俺の部屋に入るときに靴を丁寧に並べている。だから、転がっているこの靴を見て、脱がせたのが自分だったことをすぐに思い出していた。 部屋の中も、当然俺が出かけた時と同じだ。 この時間に家事代行は来ないし、片付ける人間がいるわけがない。 ただ一つ、違和感があったのは、ソファの上に何かが丸くなっていたことだ。 なぜそこにいるのだろうか。 「朝佳」 呼びかけると、こちらを向いた。不機嫌そうな顔でため息を吐いている。その顔がまた赤く染まっていた。 「寝てろって言ってただろ」 「寝てた」 「あ?」 「しばらく寝て起きたら、まだ帰ってきてなかったから、探してただけ」 ばつの悪そうな言葉に口角が持ち上がりそうになって抑えた。小さく「そうか」と呟いてから、もう一度口を開く。 「遅くなって悪い。心配かけたな」 素直に呟くと、あからさまに顔を逸らされた。「別にそんなんじゃない」と言われて笑いが落ちる。こうも素直に反応されると、擽られて仕方がない。 「お前、マジで嘘下手だな」 呟きながら手に持っていたレジ袋の中に、片手を突っ込む。その中から冷却ジェルシートを取り出した。一枚手に取って、プラスティックの保護シートを剥がす。それを朝佳に差し出した。 「おせっかい」 悪態をつきながらも、朝佳はもう抵抗することをやめたらしい。 好都合だ。朝佳が俺の手からジェルシートを取った。束の間に指と指が触れる。 触れた瞬間思わず朝佳の顔色を見てしまった俺に、朝佳は気まずそうな表情を作った。拒絶は、されないらしい。 舞い上がりたい感情を抑えて、更に紙袋から衣類を取り出す。
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