フレンドリスト 「間宮朝佳と38度7分」

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「ふざけてねえって。早く着替えて来いよ。それとも何、俺の方が似合う?」 朝佳が掴んでいるルームウェアの裾に触れて、スカートを撫でる。それを自分が着ているところを想像してすぐにかき消した。 自分で言っておきながら、あまりにも無理がある。 「朝佳ちゃんに似合うと思ってこれにしたんだけど。着てくれないんすか、お姉さん」 俺の言葉に朝佳が呆れる。このパターンに慣れてきている自分がいた。 室内には朝佳の匂いが漂っていた。 俺にとって、もうその匂いはただの花の匂いではなくなっている。朝佳の匂いは俺の鼻腔に充満し、脳を麻痺させた。 テレビすらつけられていない室内は、静寂に支配されている。恐るべき静けさが、より一層朝佳のため息を反響させていた。 俺はあと何度、こいつにため息を吐かせれば気が済むのだろう。 朝佳が俯く。その仕草と共に、睫に夕日が反射した。黒い睫が、透けて見える気がする。 ゆるく生地に触れる朝佳の指先は、俺に付属しているものとはどこか違う。どこが違うのかと問われても、形容できない。ただ、何かが決定的に違っていた。 「わかった……。でも、お金、払うから。いくらするの」
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