フレンドリスト 「間宮朝佳と38度7分」

4/30
前へ
/400ページ
次へ
真っ直ぐに見上げてくる瞳に射抜かれて、眩暈がしそうな気がした。 こいつはいつもそうだ。何もわかっていない。 ため息を吐いて、真剣に、至極真面目に言っているらしい朝佳に問いかける。 あのな、と前置きして、情けないと思いながらも言葉にする。 「気になってる女に物贈って、金払いますって言われる男の気持ちとか、考えたことあるか?」 見込みがないことは知っていた。俺が呟くと、朝佳は目を見張らせて言葉を失う。 どうやら、考えたことはなかったらしい。 何か言いかけた朝佳の唇はもう一度閉じられて、視線は宙を彷徨っていた。ただ寝やすい服に着替えさせるだけで、ここまで体力を使う女も珍しいだろう。 「可愛く笑って着とけば良いんじゃねえの。良いだろ。どうせ朝佳が着ねえんならただのゴミになんだよ」 「わかった。着るから……。でも、クリーニングして、返す」 どこまでも律儀だ。そんなことをしたところで、俺がこの服を着ることは一生ないだろうし、この服を着るのは朝佳しかいない。 ふいに、少し前にカンナに言われた言葉を思い出した。 『本命』と言われている目の前の女は、どこまでも俺から遠ざかろうとする。 「寝室で着替えて来いよ。覗かねえから」
/400ページ

最初のコメントを投稿しよう!

794人が本棚に入れています
本棚に追加