フレンドリスト 「間宮朝佳と38度7分」

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頷いて、ふらふらした足取りで寝室へ向かう朝佳を見つめながら、いつまでも縮まりそうにもない距離にため息をつく。 いつになったらあいつは、俺から与えられるものに当たり前に手を伸ばすようになるのだろう。 あまりにも途方もないことを考えてしまっている気がする。アイツは、人を頼るのが嫌いなのかもしれない。 貸しは作っても決して借りは作らない。そういう人間のような気がした。 朝佳を隠したドアを意味もなく見つめて、今更にソファに腰かけた。帰宅から30分が経っているのを知って吃驚する。 時の経過が早すぎる。 体感ではまだ5分も経っていないつもりだった。この時間にも価値は流れている。 俺が拘束している朝佳の一時間の価値は一体どれほどなのだろうか。俺はそれに見合った対価を払っていない気がしてならない。 財布に適当に挟み込んだレシートを意味もなく取り出して、その紙に書かれている数字の羅列を解読する。 37,800円。 生まれてこの方値段を見ながら買い物をしたことがない俺には、ワンピースにつけられたこの値段が高いのか、それとも普通なのか、わからない。 ただ、朝佳には言うべきではない気がした。
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