フレンドリスト 「間宮朝佳と38度7分」

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「はいはい」 スプーンを取り出してやって、朝佳が座っている横に30センチほど距離を置いて腰かけた。 他意はない。ただ、打算がなかったかと言われると、全くないとは言い切れない。 この部屋にソファは一つしかない。それに当たり前のように座り込んで、隣の女の表情を覗き込んだ。 朝佳は特に気にすることなく、ゼリーを見つめている。それを知って、一つ安堵をやり過ごした。避けられてはいない。 毎回思っていながら懲りないが、朝佳の睫はいつ見ても長い。 その睫は、緩い動きを繰り返し、ゼリーを観察する朝佳の瞼をアンニュイにぼかして、気だるげな印象を持たせていた。 朝佳の性格らしく綺麗に切りそろえられた爪先は、いつカットされているのだろうか。 色は乳白色でも桜色でもなく、至極自然な肌色をしていた。何よりも清潔感のある爪が、プラスティックの容器に寄り添っている。その爪が俺の皮膚を抉ったと思うと不可思議でならない。 あんな柔らかそうなものに、鋭利さが隠れているとはとても思えない。 朝佳は俺が差し出したスプーンで透明なゼリーを掬って、小さく「頂きます」と呟いた。今日も丁寧且つ律儀な女だ。 じっと観察していたことを知られないよう目の前にあるリモコンを取って、テレビの電源を入れた。 プツンと機械的な音がして、徐々に音量が上がって行く。夕暮れ時の頃、テレビからはニュースが流れだしていた。
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