フレンドリスト 「間宮朝佳と38度7分」

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「ん……、食べ終わった」 「もういいのか」 「もう、お腹いっぱいだから」 結局、朝佳は一個ゼリーを食べるだけで、食事を終了させてしまった。 こいつはいつもこうなのだろうか。 何度かメシに行った時には気が付かなかったが、食の細い人間らしい。 満腹だと言われている手前、これ以上勧めることもできずに錠剤を差し出した。手の上に落として、朝佳が逆らうことなく呑み込んだのを確認する。 「偉い偉い」 「すごく馬鹿にしてるでしょ」 「可愛がってんだろ」 「気持ち悪い」 「ありがとう」 悪態をつきながらもやはり苦しいのか、すぐに息が上がる。「もう喋んな」と言うと、それでも不満そうな顔をされてさすがに笑った。 まるで子どもだ。 「朝佳ちゃん、お熱、測ってみ?」 ケラケラと笑いながら体温計を差し出すと、首を横に振られる。ただをこねる子どものような姿に可笑しさがまたこみ上げて、笑いをかみ殺すのに苦労した。 小さく息を吸って、本調子ではないらしい朝佳の額に手をあてる。 朝佳は、避けられなかったというより、俺の行動が予測できなかったような顔をしていた。 触れた額は、俺が思う以上に熱い。 ジェルシートの上からでもわかる熱に、朝佳の病状が芳しくないことを再確認した。 だが、それが具体的にどれくらいの体温になっているのかまでは、わからなかった。
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