フレンドリスト 「間宮朝佳と38度7分」

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「な、に」 「あー、38度7分だな」 「はい?」 「病人はまたベッドで寝てような?」 適当に茶化して、朝佳の前髪を乱す。 俺の言葉に、朝佳は意味も解らなさそうな顔をしていた。その顔でさえ、俺の思考を擽っているのだから可笑しい。 触らないよう気を付けているくせに、何度でも触りたくなる。俺は堪え性がないし、こいつはおそらく人を煽る才能があった。 「デタラメ言わないで」 「俺がそうだと思ったらそうなんだよ」 笑いながら言ったら、朝佳は馬鹿じゃないのと呟いていた。そう言われるような気がしていた。 予想できる自分に、また可笑しくなってくる。 己が馬鹿だというくらい、もう何年も前から知っていた。 馬鹿でなければ、今すぐ朝佳との距離の詰め方を変えているだろうし、こんなところで体調の悪い朝佳を放っておいていないだろう。 朝佳に付き纏う男の事も、俺と朝佳のスマホに来た連絡の真相も、俺自身の人生も、全て、簡単に解決できていたはずだ。 ただ、現状の俺には何一つ解決できていなかった。 解決できていないままに、ここに座り込んでいる。 それならば、解決できないなりに大切にしてやりたいと思っている俺は、どうしようもなく浅はかで、救いようのない馬鹿なのだろうか。
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