フレンドリスト 「椎名 藤という男」

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俺に告げたら、止められるのを分かっているらしい。気まずそうな顔で「大丈夫だから」と言った。その声すら掠れている。 「さすがに無理だろ」 休めよと呟くと、朝佳は小さく息を吐いていた。そのままベッドから起き上がろうとして、また倒れる。 さっきと同じことを繰り返している朝佳に呆れながら、体の上に布団をかけ直した。 「どうした」 「携帯、連絡する、から」 「あ?」 「休むって、連絡」 ああ、と思うのと同時に、朝佳がバイトを休むことに驚いていた。自分で勧めたくせに、朝佳が素直に従ってくるから、調子が狂う。 戸惑いを隠すように「俺が持ってくる」と呟いて、朝佳の返事も聞かずに寝室を出た。 朝佳の鞄を開いて、中に入っているスマホを手に取った。ちらりと見えた鞄の中は良く整理されている。 ハンカチと財布とウォークマン。それから文庫本だ。 理想的なほどに無駄なものが入っていない鞄から目を逸らして、カバーも何もつけられていないシルバーのスマホを握る。そのまま寝室へと足を伸ばした。 あと一歩で寝室のドアに手が触れる所で、スマホの画面が光る。何の気なしに見つめて、俺の手と足は、勝手に動きが止まってしまった。
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