フレンドリスト 「間宮朝佳と38度7分」

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「馬鹿でも何でも構わねえから、さっさと体調治せ。ほら、立てるか?」 朝佳を促すように立ち上がって、手を差し出した。 今朝繋がれた指先の余韻が、まだこの手のひらに残っているような気がする。思い返すたびに、脳幹が痺れるような感触がある。 ハマっている。抜け出せないような気さえした。 こいつの澄んだ真っ直ぐな瞳が、酷く俺の感情を揺さぶってくる。 朝佳の白く細い指先が、俺の指先に近づく。それに密かに安堵していると、俺が思う以上の力で腕を引かれた。 女の力に逆らえないわけではないが、とっさに両足で踏みとどまって、あとはされるがままになった。 じっと、見つめ合っていた距離が極限まで近づいている。 目と鼻の先に朝佳の瞳がある。 小さな銀河の中に、俺が揺らめいていた。朝佳の瞳の神秘に見惚れている間に、指先の拘束が弱まる。 「嫌。春哉の寝る場所、無くなるでしょ」 そういう所に惚れていると言ったら、朝佳はまた鼻で笑いそうだ。永遠に教えてやらない。 「なに、俺の心配? お前が可愛過ぎて眩暈してきたんだけど」 「はあ? 何馬鹿なこと言ってんの?」 軽いジョークのように本音をのせて、一瞬で一蹴されるのを笑った。 そりゃそうか。 朝佳にとって俺は、そういう男だ。軽々しく誰かを口説く男だ。 現実を理解して、微かに自嘲する。そのくせに、赤く染まっている頬を見つけると、何度でも俺は勘違いする。 俺は、正真正銘馬鹿な生き物だ。
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