フレンドリスト 「間宮朝佳と38度7分」

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「お前が帰れても、俺が心配で心配で帰したくねえんだよ」 白状するように囁いた。 朝佳は今度こそ、俺の言葉に呼吸を止めていた。 そんなに驚くことなのだろうか。 何度でも本音を漏らしているというのに、朝佳はいつになったら俺の発言を、驚くことなく受け入れられるようになるのだろうか。 間抜けと思えるくらいに声を失っている朝佳に、笑えてくる。 こいつは無自覚に人を誑し込んで、無意識に人を煽り付けて、その上で、相手の好意には鈍感らしい。 眩暈は止まりそうにない。 朝佳に触れたがる指先を無視して、じっと視線をぶつける。 赤らんだ顔の女は、徐々に思考を取り戻しているのか、絡み合う視線の中、瞳を揺らしながら薄い唇が開かれる。 「こうやって、ただ心配なだけで家にあげたりするから、後輩に不意打ち食らったりするんだと思う」 「あ?」 朝佳に発言されて、この家には藤と朝佳以外来ていないことを言っていないことに気付く。 言うべきことでもないが、朝佳の中での俺は、どんな人間でも簡単に家にあげる男とされているらしい。 そんなわけがない。 つくづくこいつは、俺のことを何も理解していない。俺の発言を信じようともしない。
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