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どうしたらいいのかと思うが、初回の待ち合わせに遅れてくるような男を信頼できる人間などそうそう居ないだろう。
重々わかっていたが、今更になってあの日の愚行が悔やまれてくる。おそらく、それ以前の問題のような気もするのだが。
「勘違いされるでしょ」
「何だそれ、朝佳も勘違いしてんの?」
「してない」
あっさりと言われて笑った。
気付けよと言いたくなるのをもう一度喉の奥へと押し戻して、小さく息を吸った。朝佳の瞳は相変わらず俺を見つめているくせに、覇気がない。
いつもの刺さりそうなくらいに鋭く凍てついた視線は、今では熱く緩んでいて、頼りない。
「お前、マジでわかってねえな」
「はあ?」
「勘違いすりゃいいだろ」
「何、気持ち悪い。冗談じゃない。その匂いの女の子に謝って」
眉を顰めたままに吐き捨てられて、また同じミスを犯していることに気が付いた。
脳裏にキホの泣きそうな顔が滲む。
狡いだとか勘違いさせるだとか、俺はいったいどんな最低の男だと思われているのだろう。
なりふりを、構っている暇はない。
今ここでぐったりしているくせに俺の手から離れて行こうとする朝佳に、思考が乱されていく。
格好をつけている間にすり抜けられる。言葉を飾っているうちに消えていく。
分かっているから、もう、等身大のままの情けない自分で挑むしかない。
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