フレンドリスト 「間宮朝佳と38度7分」

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朝佳の勝機がないことは知っていた。それでも俺が言うと、朝佳は小さく頷いている。 俺が寝たとして、どうやって俺を寝室まで動かすかとか、そういうことにまでは、思考が及ばないらしい。明らかに、朝佳の注意力が散漫になっている証だった。 リビングには他愛のないニュースが流れていた。 ほとんど観ていなかった俺たちは、まとまった会話の後に続ける言葉もなく、とりあえずソファに座り直した。 距離は20センチくらいになっていたかもしれない。確認したら止まらなくなるとわかっていたから、知らないふりをした。 ぼんやりと前を見つめて、朝佳が無言になっているのを感じる。何を考えているのだろうか。 俺に朝佳の思考はわからない。同じように朝佳にもわからないのだろうが。 朝佳に勝機がないことを知っていたのは、俺が不眠症になっていることを自覚しているからだ。 こいつと知り合ってから、ほとんど眠れていない。知っているが誰かに打ち明ける気はなかった。寝坊せずに済む便利機能だと思えば悪くない。 「映画でも観るか」 「いい、けど」 リビングに反響するしじまを裂く様に呟いて、立ち上がる。テレビの下に収納されているボックスの中から適当に一作取り出して、DVDプレイヤーに挿入した。 再生を押してソファに戻ると、朝佳と目が合う。 「なに?」 「ん?」
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